産業ロボットの種類を選ぶときは、機構の名称だけでなく、工程、ワークとハンドを合わせた荷重、必要な到達範囲、精度、実工程のサイクル、周囲環境を一体で確認します。多関節、スカラ、パラレル、直交、協働の特徴と選定時の注意点を整理し、カタログ値をそのまま生産条件とみなさないための現物試験、関係者の役割、比較の手順を解説します。

機構名から選ぶ前に工程条件をそろえる

産業ロボットの種類を調べる際、最初に機構の名称だけで候補を絞ると、導入後に届かない、保持できない、工程を止めるといった不整合が生じます。先に、ロボットに何をさせるのかを工程単位で書き出します。対象物の受け取り、姿勢の変更、加工機への投入、検査、箱詰めでは、必要な動作や求められる結果が異なります。同じ搬送でも、経路が単純な移載なのか、周辺設備を避けながら向きを変えるのかで候補機構は変わります。品種切り替えや段取り替えの頻度も含め、通常運転だけでなく立ち上げ、復旧、清掃時の作業まで確認します。

ロボットが持つ重量は、ワークだけで決まりません。手先に取り付けるハンドや吸着部品などの重量も可搬質量に含めて考えます。ワークを複数個まとめて持つ場合、把持具に付属部品がある場合、配線や配管を手先に持たせる場合は、それぞれを加えた状態を確認します。重量の合計だけで足りるとは限らず、重心や持ち方、動作中の姿勢も候補機種の確認事項です。カタログ上の最大値だけで判断せず、採用するハンドと実際のワークを組み合わせた条件をメーカーに提示し、動作可能な範囲を照合します。

届く範囲は、ロボットから作業点までの距離だけでなく、ワークを受け渡す位置、設備の開口、周辺物との干渉を含めて見ます。図面上で腕が届いても、姿勢を変えられない、ハンドが設備に当たる、配線が引っ掛かる場合は工程が成立しません。精度も、仕様に記載された値の比較だけで終わらせず、製品のばらつき、治具、カメラや位置決めの方法を含めて必要条件を定義します。設備設計者、製造担当者、品質担当者が同じワークと動作条件を見ながら、必須条件と許容できる条件を分けることが選定の出発点です。

多関節・スカラ・パラレル・直交の使い分け

多関節ロボットは複数の関節で腕の向きや先端姿勢を変えられる構成です。障害物を避ける経路や、斜めからの接近、設備内での姿勢変更が必要な作業で候補になります。一方で、動ける方向が多いことは、単純な直線移載に必ず有利という意味ではありません。設置位置、動作経路、周辺設備との干渉を検討し、必要な可搬質量と作業点への到達を同時に確認します。加工機への投入、組立、複雑なピッキングなど、対象物の向きや接近方向が工程上の制約になる場合に、自由度がどの作業を解決するのかを明確にします。

スカラロボットは、平面内の移動と上下動を中心に使う構成として、決まった面上での移載や組立を検討する際の候補です。上下方向の動作や作業範囲に合えば、工程を簡潔に構成しやすい一方、斜め方向からの接近や複雑な姿勢変更が必要な作業では、別の機構との比較が必要です。パラレルロボットは複数の腕で先端部を支える構成で、対象物を選別して所定位置へ移す工程などで検討されます。対象物の形状、供給状態、ハンドの構成、取り出す順序を含めて成立性を確かめます。機構の名称だけで速さや精度を決めつけず、実際の動作条件で確認します。

[PR] 広告バナー(PR)

直交ロボットは、直線軸を組み合わせて動作範囲をつくる構成です。移動範囲を設備の形状に合わせて設計しやすい場合があり、決められた方向への移載や長い直線移動を比較するときに候補になります。ただし、軸の配置が長くなれば設備全体のレイアウトや保守空間にも影響します。多関節、スカラ、パラレル、直交のどれが適するかは、作業点の配置、必要な姿勢、荷重、設置面積、周囲の機器で変わります。メーカーの製品群には可搬質量や用途に応じた選択肢がありますが、機種を特定するには、工程条件をそろえたうえで個別に照合する必要があります。

参考資料:ファナック:産業用ロボット

協働ロボットは人との距離だけで判断しない

協働ロボットは、人が近くで作業する工程を検討するときの選択肢ですが、「協働」と呼ばれることだけを理由に、柵などの周辺設備が不要と判断することはできません。ロボット本体に加え、取り付けるハンド、扱う搬送物、周辺設備を含めた工程全体を確認します。例えば、先端に取り付けた工具やワークの形状、動作経路、受け渡し位置が変われば、作業者が接触する可能性や工程のリスクも変わり得ます。導入案では人の立ち位置と作業内容を図示し、通常運転だけでなく、段取り替えや詰まりの処置も検討対象に含めます。

リスクアセスメントとは、作業に伴う危険を洗い出し、対策を検討する手順です。協働ロボットを導入する場合も、周辺設備や搬送物を含めたリスクアセスメントが必要であり、安全柵を常に省略できるわけではありません。危険源の確認を製造担当者だけで完結させず、設備設計、安全を担当する部門、保全担当者などが、ロボットの動きと人の作業を合わせて確認します。対策の内容は工程や設備条件で変わるため、形式的な機種名やカタログ上の説明から安全性を断定しないことが重要です。

協働方式を候補にする際は、人とロボットがどの作業を共有するのか、作業者がいつ、どこで設備に接近するのかを明らかにします。安全柵を設置する案と、工程を分ける案、ロボットの動作領域を見直す案などを比較し、設備全体として実行できる構成を検討します。現物試験では、実際のハンド、搬送物、治具、周辺設備をそろえ、想定する運転と作業者の介入を確認します。導入後に対象物やハンドを変更する可能性がある場合は、変更時の再確認を誰が担うかも決めておきます。協働ロボットを選ぶことと、安全対策を決めることは別の判断です。

source_ids

参考資料:ファナック:協働ロボットとは

荷重・精度・実サイクル・環境を一緒に評価する

可搬質量の照合では、ワークとハンドの合計を基本に、複数個取りや付属部品などを含む実際の保持状態を提示します。把持位置や重心が候補機種の動作条件に合うかも確認し、ワークが軽いという理由だけで余裕があると決めません。到達範囲は、ロボットの設置位置、作業点、設備開口、ハンドの形状を含めて検討します。精度は、置き位置や加工・検査の要求と結び付けて考え、治具やワークの位置決めが担う役割も明確にします。要求を数値で表せない場合も、許容できるずれや失敗の状態を関係者間で共有し、合否判定の方法を決めます。

カタログの最高値や代表値は、特定の条件に基づく性能情報であり、そのまま実工程の速度を示すものではありません。実際のサイクルには、対象物を認識する時間、把持の確認、設備との受け渡し、加工機や検査機の待ち時間、停止後の復旧などが関係します。加減速や経路、ハンド、ワークの状態によっても動作条件は変わります。選定時には、カタログ値と実工程で測る時間を分け、どの工程区間を測定したのかを記録します。メーカーに示す動作条件と、現物試験で採用する条件を一致させると、比較結果を工程設計や事業計画に反映しやすくなります。

[PR]

周囲環境では、粉じん、液体、温度、洗浄、振動、電源や配線の取り回しなど、現場で実際に問題になる条件を洗い出します。設備内の空間や保守時のアクセスも確認し、ロボット本体だけでなくハンド、ケーブル、制御装置、周辺機器を含む構成として検討します。必要な耐環境条件や保守の方法は、用途と設置場所に応じてメーカーへ確認します。確認資料には、製品資料に加えてレイアウト、ワーク図、ハンド仕様、動作の一覧、環境条件、要求品質を含めます。調達は仕様と見積範囲、製造は運転と段取り、品質は合否条件、事業企画は稼働前提を確認し、決定事項と未確定事項を分けて管理します。

現物試験で工程成立性と導入条件を確かめる

現物試験は、カタログ上の適合確認を補う選定工程です。実ワーク、採用候補のハンド、治具、供給状態を用意し、量産時に想定する動作を再現します。対象物のばらつきや供給のずれ、品種変更、設備との受け渡しも試験条件に含めます。確認したいのは動作が一度できるかではなく、求めるサイクルや品質で工程を繰り返せるか、停止や取りこぼしが起きたときに復旧できるかです。試験前に合否条件と記録方法を決め、ロボット単体の時間と、周辺設備を含む工程時間を分けて記録すると、原因を切り分けやすくなります。

試験の準備では、製造が実ワークと作業手順、調達が候補機種と見積範囲、品質が許容範囲と測定方法、事業企画が生産計画の前提を整理します。設備設計や保全の担当者は、設置、配線、交換部品へのアクセス、復旧方法を確認します。メーカーには、ワーク重量だけでなく、ハンドを含む質量、保持方法、到達が必要な位置、動作の順序、希望する工程サイクル、環境条件を渡します。資料の条件と試験の条件が違う場合は、その差を明記して追加確認します。前提が曖昧なまま比較すると、各候補で異なる条件を評価してしまい、選定理由が不明確になります。

判定では、必須条件を満たさない候補と、改善や追加確認で成立する候補を分けます。サイクルを満たしても品質が安定しない場合、ハンドや供給方法、位置決めの見直しを検討します。必要範囲に届いても設備との干渉が残る場合は、設置位置や機構の変更を含めて再評価します。協働ロボットを用いる案では、搬送物や周辺設備を含めてリスクアセスメントを行い、安全柵を省略できると一律に扱いません。最終記録には、採用理由、試験条件、未確認事項、変更時の再評価担当を残します。現物試験で確かめた工程条件と、実導入時の設備構成を一致させることが、比較結果を実務に生かす鍵です。

source_ids

参考資料:ファナック:産業用ロボット / ファナック:協働ロボットとは

工程条件から見る産業ロボット機構の比較と選定時の確認事項

編集部による論点整理。個別設備・契約の条件で確認してください。
機構・方式確認する条件実務上の意味
多関節姿勢変更、障害物回避、可搬質量、到達範囲、周辺設備との干渉複雑な接近方向や姿勢が必要な工程の候補。動作経路とハンドを含む荷重を実条件で照合する
スカラ平面上の移載、上下動、作業点の配置、必要な姿勢、サイクル決まった面上の移載や組立に合うかを確認。斜めからの接近や大きな姿勢変更が要る場合は比較を広げる
パラレル対象物の供給状態、選別・移載の順序、ハンド、荷重、実サイクル対象物と供給方法を含む現物試験で工程成立性を評価。機構名だけで速度や精度を決めない
直交直線移動の範囲、軸配置、設備寸法、保守空間、荷重決められた方向への移載と設備レイアウトを合わせて確認。長い移動範囲が設備全体に与える影響を見る
協働人の作業位置、搬送物、ハンド、周辺設備、リスクアセスメント協働ロボットでも周辺を含むリスク評価が必要。安全柵を常に省略できるとは限らない

工程と判断をつなぐ流れ

検討手順の概念図。実施順序・必要工程は案件ごとに異なります。
  1. 01工程と対象物を定義し、ワーク・ハンド・周辺設備の条件を集める
  2. 02到達範囲、必要姿勢、精度、環境、工程サイクルを仕様化する
  3. 03機構別の候補を照合し、資料とメーカー確認で適合条件を整理する
  4. 04実ワークと実ハンドを使って現物試験を行い、品質・時間・復旧性を記録する
  5. 05関係部門で合否と未確認事項を確認し、採用理由と変更時の再評価方法を残す

仮定の検討例:品種の異なる部品を加工機へ供給するセル

ここでは、複数の品種の部品を作業者が準備し、ロボットが加工機へ投入するセルを新設する架空の検討例を設定します。目的は、品種ごとに異なる形状と受け渡し位置に対応しながら、加工機の稼働を妨げない工程をつくることです。事業企画は生産計画の前提と目標とする工程時間を整理し、製造は部品の準備方法、段取り替え、停止後の復旧手順を洗い出します。調達は候補機種の範囲や見積対象をそろえ、品質は加工前の向きや位置の許容条件を定義します。

検討の制約として、部品だけでなく、複数品種に共用する把持具の重量も可搬質量に含めます。部品をつかむ位置と加工機の開口を踏まえ、ハンドが設備に干渉せず必要な姿勢で受け渡せるかを確認します。工程時間の評価では、ロボットのカタログ上の最高値を生産サイクルと見なさず、部品の供給、把持確認、加工機との受け渡し、待ち時間を含む時間を測ります。作業者がロボットの近くで品種変更や補給をする案なら、協働ロボットを候補に含めても、周辺設備と搬送物を含めたリスクアセスメントを省略しないことを前提にします。

[PR] 広告バナー(PR)

確認資料は、部品図、重量と把持位置、ハンド仕様、セルのレイアウト、品種別の動作一覧、環境条件、品質上の合否基準です。製造と品質が実部品を準備し、設備設計が受け渡し位置や干渉を確認します。候補機種ごとに実ワークとハンドを用いた試験を行い、品種ごとの位置決め、繰り返し時の不具合、工程全体の時間、停止後の復旧を記録します。調達はメーカー提示の適用条件と試験条件の違いを残し、事業企画は生産計画の前提に照らして結果を確認します。試験で条件を満たさない場合は、候補の変更だけでなく、供給方法や治具を変える案も比較します。

判断は、機構名の印象ではなく、必要な姿勢、荷重、到達、精度、実サイクル、周囲環境を同じ条件で比べて行います。多関節の動作自由度が品種差に役立つなら、その利点と設置・干渉条件を確認します。受け渡し経路が単純なら、スカラや直交なども同じ試験条件で比較します。人との共同作業を想定する場合は、協働ロボットを選ぶことだけで安全面の結論とせず、必要な対策を別に検討します。品種が増える、ハンドが変わる、供給位置が変わる場合は再評価する担当を決め、導入後も選定時の前提を追跡できるようにします。

よくある質問

産業ロボットの種類は、どの工程情報から比較すればよいですか?

工程の動作、ワークとハンドの合計荷重、必要な作業点と姿勢、許容できる位置ずれ、工程全体の時間、周囲環境を整理します。設備レイアウトや品種変更、作業者の介入も条件に含め、同じ前提で候補を比べます。

カタログにある最高速度を、実工程のサイクルとして使えますか?

そのまま使うことはできません。カタログ値の条件と、把持確認、設備との受け渡し、待ち時間を含む工程は異なり得ます。実ワークとハンドを用いた試験で工程全体を測り、ロボット単体の時間と区別して評価します。

協働ロボットを選べば、安全柵を省略できますか?

協働ロボットであっても、安全柵を常に省略できるわけではありません。ロボット本体だけでなく、ハンド、搬送物、周辺設備、人の作業を含めてリスクアセスメントを行い、工程ごとに必要な対策を確認します。

一次資料と確認日

資料に示された公表事実を参照し、本文の比較・確認手順は編集部が整理しています。将来の計画と現在の稼働実績は区別してください。